雇用関係の一般先取特権に基づく債権差押命令の申立


■未払給料で困った場合は…

会社からの未払いの給料については、「先取特権」という権利に基づいて強制執行が可能です。

通常、強制執行をしようと思った場合には、まずは裁判を起こして判決等をもらって、それから強制執行をします。

裁判所に訴状を出してから最初の裁判の期日までは、通常1ヶ月〜2ヶ月程度先で、1回で終わればよいのですが、期日が何回も重なると半年・一年かかるというのもザラにあります。

ところが、雇用関係に基づく債権(給料や退職金、解雇予告手当等)については、裁判手続をせず、いきなり強制執行が可能です。

ただし、いきなり可能とはいってもなんでも認められるわけではなく、判決などのお墨付きがないわけですので、裁判所に差押命令の申立書のほか、様々な書類を提出しなければなりません。

■どんな立証が必要か

東京地裁民事執行センターでは、「雇用関係の一般先取特権に基づく債権差押命令の申立てについて」という文書を配布しているようで(本日現在のお話)、先日裁判所に行きましたら教えてくれまして、一部もらいました。
最近できたのかどうかは分かりませんが、申し立て件数が増えたためでしょうか…

これを読みますと要点がよくわかりますし、必要書類のリストもありますので便利です。未払給料の場合に立証しなければならないことは、

・申立人と会社が雇用契約を結んでいたこと

・申立人支払いを受けるべき給料の額

・申立人実際に働いたこと

という具合です。

■必要な証拠資料

その立証のためにいろいろな書類を提出します。
労働契約書、就業規則、離職票、源泉徴収票、給料明細書、勤務記録(出勤簿、タイムカードなど)、給料が振り込まれた銀行預金通帳などです。
立証のために、会社から出た手紙、メールや、申立人が陳述書を書いたりもします。

■証拠資料の証明力?

ところで、この立証はなかなか大変です。まあ、いきなり差し押さえをしてしまうのですから、確実な資料がなければ、架空の差し押さえがたくさん行われたりして大変なことになってしまいますので、当然です。
裁判所も、「高度な証明力を持つものであることが必要」と言っていますので、例えば給料明細ならなんでもいいというわけではないんですね…

これらの証拠書類ですが、基本的に「会社が作成して押印したもの」の方が、申立人が作成したものよりも信頼性が高いです。押印がなければ申立人が勝手に作ってしまったという可能性もありますので、証明力という意味では低いです。

具体的に、私が扱った案件で、裁判所から「これは証拠として不十分」と指摘されたのは、以下のような点です。

・給料明細書に会社名が入っていない

・源泉徴収票に会社の押印がない

・会社の使用している印鑑が本当に会社のものか不明

・会社が申立人に出した未払給与があることを認めている文書に未払額の記載があっても、これだけでは未払額の立証にはならない(…うーん?と思いましたが)

以上のように、裁判所から書類として不十分と言われた場合でも、他の証拠資料や、上申書の提出で補強して、なんとかなったケースもあります。なのですぐに諦める必要はありません。
なによりも通常裁判を行うよりは早く解決しますから、可能性があれば試してみる価値はあると思います。

■もちろん却下される場合も

一度、先取特権に基づく債権差押命令が却下されたことがありますが、それは時給の定めと勤務時間の記録が不明というケースでした。もちろん、口約束では1000円という約束だったのですが、給料明細書に会社名がなく、タイムカードにも会社名がなく、しかも打刻の時間にばらつきがあり、出勤や退勤の打刻が漏れたりしていて信用性に欠ける、というケースでした。
確実な証拠がないということで却下され、その却下決定に対し抗告も行いましたがそれも高裁で却下されて、諦めて通常訴訟で判決を取ったことがあります。

同じような手続きで「仮差押」もありますが、これは保証金が必要なのと、あくまでも仮の差し押さえだということでそこまで厳しい立証は求められていません。差押が無理なら仮差押も検討しましょう。

きちんと離職票や給料明細を出している、しっかりした会社ほど差し押さえがしやすく、逆にきちんとした給料明細も出さないようないいかげんな会社は差し押さえがしにくい、ということになります。

逆に企業側からみれば、給料の遅配をしてしまっている会社は、いきなり銀行預金や売掛金などを差押されてしまう危険があるということですね。
給料の遅配は致命傷になりかねないので気をつける必要があります。

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