【取扱事例】競売不動産の売却許可決定取消申立

  • 2010年05月07日
  • 裁判事務
  • 著者:司法書士 山内隆之

競売の最高価買受人が、売却許可決定取消申立をして認められた事例をご紹介します。

 
■相談の内容

相談者のAさんは、マンションの1室を競売で入札しました。
開札の結果、Aさんは最高額の入札者となり、裁判所の売却許可決定を得ました。
次に代金を納付すれば、晴れて所有者となるわけですが、
Aさんが前所有者の方にコンタクトをとったところ、
落札の約2年前に入居していた人が同物件の風呂場で亡くなったことを知ったのです…。

 

Aさんとしては、そのような物件を買いたくはありませんし、
入札時に納めた保証金(約200万円)を放棄すれば買わずに済みますが、
それも返して欲しいのでなんとかならないか、ということで相談に来られました。

 

以前にも他の相談に行ったそうですが、それは無理だ、と言われたそうです。

私は、書類作成の方法等をアドバイスするという形で関わることになりました。

 

■どうすれば保証金が取り戻せるか?

基本的に売却許可決定まで出ている場合は、正当な理由がなければ取り消しをすることはできず、残代金を支払って買うか、保証金を放棄して買うのをやめるかのどちらかになります。

 

保証金を取り戻すには、売却許可決定を取消してもらう必要があります。

取消が認められる場合は、次のときです(民事執行法第75条1項。他にも執行抗告があります)

(不動産が損傷した場合の売却の不許可の申出等)
第七十五条  最高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定前にあつては売却の不許可の申出をし、売却許可決定後にあつては代金を納付する時までにその決定の取消しの申立てをすることができる。ただし、不動産の損傷が軽微であるときは、この限りでない。

これによれば、たとえば入札後に建物が地震で損壊した場合などが、取消の事由に当てはまります。

判例では、居住していた人が自殺していたことが後から判明した場合は、この条文を類推適用し、「損傷」に当たるとして売却許可決定が取り消された(もしくは売却不許可決定となった)事例があります。(札幌地裁平成10年(ヲ)第1211号売却許可決定取消申立事件、判タ1009-272、福岡地裁昭和62年(ケ)第345号不動産競売申立事件、判タ737-239)

 
■さて、Aさんの事例では…

Aさんが入札する前に調べた執行官の調査報告書などには、入居者が亡くなった事実の記載がありませんでした。
裁判所の記録に記載がない以上、もちろんAさんはそのことを知るよしもありません。

 
あとは、入居者が亡くなったことが上記の条文に言う「損傷」に当たるかどうかの問題です。
自殺であれば損傷と認められるでしょうが、前所有者との話では
詳しいことは教えてもらえず、自殺とまではいえないような感じだったようです。

 

分かったことは入居者が高齢者で、お風呂場で亡くなっていたということ。
これだと、自然死である可能性も高く、「損傷」には当てはまらないと判断されるのでは…、と思われました。

 

この検討の結果、Aさんはやれるだけのことはやりたいということで、売却許可決定の取消申立をすることになりました。

 
■取った手続き

まず裁判所には、「売却許可決定取消申立書」を提出しました。
その申立書には、証拠書類を付ける必要がありましたが、申立時には判例のコピーしか付けることができませんでした。

 
なぜなら、前所有者を始め、区役所、警察署、電気ガス水道局に対して
Aさんが連絡をして、入居者の死亡原因が分かる手がかりがないかどうか
問い合わせをしても、回答を拒否されてしまったからです。
最近では個人情報保護の関係で、裁判所を通さないと回答してくれない
ところがほとんどですね。

 
そのため、この申立に付随して、調査嘱託の申立をしました。
調査嘱託の申立では、嘱託先を区役所にし、区役所に保管されている死亡届に添付されている死亡診断書についての回答を求める形にしました。(その後裁判所は、警察に対しても照会をしてくれたようです)

 
もし死亡診断書に自殺と記載があれば、売却許可決定が取り消されると踏んだわけです。経緯からすると、自殺ではない可能性が高いですよね…とAさんと話してはいたのですが、一縷の望みをかけました。

 

■結果

その結果をまつこと、1ヶ月くらいでしょうか、なんと売却許可の取消決定がおりたのです。

 
決定の理由を読むと、死因は自殺ではなかったのですが、死亡してから発見されるまで数日経過していたそうで、鑑定人から、そのことを加味すると評価額が10%下がってしまうという意見書が提出されたそうです。

 
そのため、裁判所は損傷に当たるとして、取消の決定をしたということです。

 
結局無事に保証金を取り戻すことができ、うまく解決することができました。
これも、まさにあきらめずに行動したAさんの努力のたまものでした。

 

なんでもチャレンジすることは大切だと教えられた案件でした!

“【取扱事例】競売不動産の売却許可決定取消申立” への4件のフィードバック

  1. K より:

    これはスゴイ。
    よく頑張りましたね。

  2. pahoehoe より:

    確かにね、よくぞやった!という案件ですね。
    200万円という金額もややビミョーなところですね。
    「不運だと思って諦めるか、クソッ!」で終わるかも…僕の場合。

  3. 匿名 より:

    競売の最高価買受人が、売却許可決定前に、競売執行停止を受けた後、1年3ヶ月経過した。その後、裁判において債務者と債権者の和解で、最高価買受人の承諾が無くとも、執行が取消されるもでなのでしょうか?

  4. yamauchi より:

    買受けの申出があるまで(基本的に開札期日まで)は、申立人(債権者)はいつでも競売の取り下げが出来ます。
    その後は、最高価買受人と次順位買受申出人の同意がないと取り下げができません。
    いただいたコメントだけですとなんとも言えませんが、執行停止後、取り下げが有効にされれば、執行事件は終了となりますね。

コメントを残す