敷金返還請求

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著者:司法書士 山内隆之(東京司法書士会所属)

 「敷金を返してもらえなかった」

 「敷金がもどってこないどころか、高額の補修費用を請求されてしまった」

 →その補修費用は正しい計算でしょうか?
 賃貸借契約書を読み直して、正しい計算で主張しましょう。
 司法書士が敷金返還を巡るトラブルについて解説します。

■目次

  1. ■敷金返還についての考え方
  2. 1.敷金返還に関するトラブル
  3. 2.明渡しのときの補修費用はどのようなものがあるか
  4. 3.国土交通省住宅局のガイドラインがある
  5. 4.ガイドラインの考え方
  6. 5.建物の損耗とは?
  7. 6.負担をする人
  8. 7.通常損耗等による補修費用を賃借人に負担させる特約
  9. 8.特約が有効に成立するためには
  10. 9.特約が無効となる場合は?
  11. 10.結局、敷金は戻ってくるのか?
  1. ■実際の敷金返還請求の手続き
  2. 1.原状回復費用の明細を出してもらう
  3. 2.明細の検討
  4. 3.計算結果を伝える
  5. 4.裁判手続
  6. 5.弁護士・司法書士に依頼することもできる

■敷金返還についての考え方

1.敷金返還に関するトラブル

 引越で住んでいた賃借建物を大家さんに明け渡した場合、お部屋のクリーニング代や補修費用を請求されることがあります。
この費用が敷金の範囲でおさまり、清算後にあまった敷金が戻ってきます。
ところが、この費用が過大に請求され、敷金が戻ってこないどころか、さらに費用の支払いを求められることがあります。
 このようなときは、大家さんの請求している費用が正しいかどうか検討する必要があります。

2.明渡しのときの補修費用はどのようなものがあるか

 原状回復費用は、様々な項目があります。

  •  ・ルームクリーニング
  •  ・クロス(壁紙)の張替え
  •  ・畳の裏返し
  •  ・ペットの消臭・消毒
  •  ・障子の張替え
  •  ・ガラスの交換
  •  ・床板の補修 etc.

 これらの補修費用、修繕費用は、いったい大家さんと借り主のどちらが負担するのでしょうか?という問題です。大家さんが負担するなら、敷金から引くことはできませんし、借り主が負担するなら敷金から引かれることになります。

3.国土交通省住宅局のガイドラインがある

 これらの費用の負担者については、国土交通省住宅局の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」というものがあり、それには原状回復費用についての基準が記載されています。
また、敷金返還をめぐる裁判例も多数ありますので、このガイドラインや裁判例を参考に考えていきます。

4.ガイドラインの考え方

 ガイドラインから引用しますと、

「建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が、契約により定められた用法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃借人に返還すればよいとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を『賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること』と定義して、その考え方に沿って策定」されたもの

となっています。
 基本的には、借りた部屋を普通に使っていれば、賃借人としてはそのまま返すものであり、借りた当時の状態まで戻すものではない、という考え方です。

5.建物の損耗とは?

 ところで、建物の損耗とはなんでしょうか。同ガイドラインでは、建物の損耗等を3つに区分しています。

  • (1) 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)
  • (2) 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
  • (3) 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

6.負担をする人

 次に、上で区分した3つについて、賃借人・賃貸人どちらが負担するかの考え方は、以下のとおりです。

  •  a.(1)の経年変化と(2)の通常使用による損耗等の修繕 →賃貸人負担
  • (次の入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどのリフォームなど)
     ※大家さんは借り主から家賃をもらう代わりに、借り主に対して部屋を通常通り使えるようにする義務があり、そのための費用は受け取る賃料に含まれているので、大家さんが負担するという考え方だからです。

  •  b.(3)の損耗等を補修・修繕するための費用 →賃借人負担
  • (この損耗等を復旧することを「原状回復」と定義しています)
     ※賃借人が誤って壊してしまったり汚してしまったものは、賃借人の負担です。これは、当然のことといえば当然のことですね。

7.通常損耗等による補修費用を賃借人に負担させる特約

 ところで、賃貸借契約書には、「ルームクリーニング代、通常使用による損耗は賃借人の負担とする」という「特約」が記載されている場合があります。
 前述の基本的なルールにも関わらず、賃借人に補修費用の負担をさせるという特別な約束をしているわけです。
 しかし、このような特約は、賃借人の負担が重くなりすぎるために無効とされる場合があるのです。

8.特約が有効に成立するためには

 この特約が有効か無効かは、いくつもの裁判で争われており、最高裁判所の判例(平成17年12月16日最高裁判決)があります。判決では次のように判断されています。

「賃借人に通常損耗についての原状回復義務が認められるには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」

引用元:裁判所|裁判例情報 平成17年12月16日最高裁判決

 ガイドラインにも、この特約が成立するための条件として、

  • (1)特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • (2)賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • (3)賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 の3つが挙げられています。

 その他、借り主が事業者ではなく、一般の消費者である場合は、消費者契約法第9条や10条により無効となる可能性があります。これらのハードルをクリアしなければ、特約は無効、ということになります。

9.特約が無効となる場合は?

 特約が無効となる場合は、通常損耗による補修費用は、原則どおり大家さんの負担となります。そうすると、原状回復費用について計算をし直して、戻ってくる敷金があれば、それを返すように求めることになります。
 この計算については、まず大家さんと借り主で話合い、それで決着がつかなければ裁判所で決めてもらうこともできます。

10.結局、敷金は戻ってくるのか?

 以上のとおり、契約書の内容により、敷金の返還請求ができるかどうかが決まります。特約の成立はなかなか厳しく、また、法律では消費者契約法などで消費者を守るようにできておりますので、大家側からもどってくる敷金はないよと言われても、実際には返還請求ができる場合も多くあります。
 もし敷金のことで納得が行かない場合には、調べたり、専門家に相談してみましょう。

■実際の敷金返還請求の手続き

1.原状回復費用の明細を出してもらう

 大家さんや不動産会社から敷金の清算について連絡が来て、その内容に納得がいかない場合は、原状回復費用の明細を出してもらいましょう。
 多くの場合は、原状回復の内装工事の見積書を出してもらえるはずです。
 もしも出してくれない場合は、原状回復費用が正当なものかどうか分からないとのでと伝えて、敷金を返してもらうようにお願いします。

2.明細の検討

 明細書には、壁紙の張替えが㎡単価いくらで何円とか、クリーニング費用一式いくらと記載されています。また、大家さん負担が何%、賃借人負担が何%と記載されている場合もあります。
 これについて、賃借人がいくら負担するかを検討します。このときに、前記ガイドラインや判例などが参考になります

3.計算結果を伝える

 賃借人側で計算した結果を大家さんに伝えましょう。ここで意見の相違が出てくるかもしれませんので、その場合は交渉となります。交渉がまとまったら、和解書などを作成した方が双方にとってよいと思います。
 交渉がまとまれば良いのですが、交渉がまとまらずに決裂した場合は、裁判所に訴え出て敷金の返還請求を行うこともできます。

4.裁判手続

 裁判手続の流れについては、債権回収のページで解説をしていますので、そちらをご参考になさってください。
 裁判所では、原状回復費用のどの項目が賃借人負担となるか、審理をしてくれます。場合によっては途中で和解を勧められますので、納得がいけば和解をすることもできます。
 和解にも至らず判決にするとなれば、裁判所でどちらが負担するかを検討をのうえ、判決を出してくれます。勝訴すれば、判決で認められた金額を請求します。それでも支払ってくれない場合は強制執行をして回収を図ることになります。

5.弁護士・司法書士に依頼することもできる

 上記の1〜4までの一連の手続きは、弁護士・司法書士に依頼して行うことができます。原状回復の細かい計算や、大家さん側との交渉、裁判手続きなど、専門的知識が必要になり、手間もかかりますので、専門家に依頼すれば費用はかかるものの、ご自身の時間の節約やストレスを避けることができます。

裁判の報酬と費用

当事務所では、当事務所の報酬規定に基づき、明確な報酬額を定めております。 ご依頼の際には、費用について詳しくご説明の上、契約書を作成します。 事前にご説明のない費用のご請求はありませんので、安心してご依頼いただくことができます。

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